根拠はないけど、そう思う

折口信夫にはまったものの、推し方がよくわからない…

『大津皇子と万葉集』・映画『死者の書』上映会・當麻寺霊宝殿

 今年は没後70年と言うことで、奈良の當麻寺で9月3日の命日に合わせて上映会と展示がありました。

 

【目次】

竹内街道歴史資料館『大津皇子万葉集

 その前に『死者の書』に関連する展示があるとのことで、近鉄南大阪線「上ノ太子」で下車。

 駅前からバスに乗ったり、歩いたりして、竹内街道歴史資料館へ向かいました。

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 最終日に滑り込みです。

 日本書紀大津皇子の登場箇所や万葉集の歌を紹介しながら、処刑の過程を辿るもの。

 『死者の書』の登場人物として抓んで知っているだけだったので、生い立ちや政治的な立場について参考になりました。

憐みのないおっかさま。おまえさまは、おれの妻の、おれに殉死(ともじ)にするのを、見殺しになされた。

――『死者の書折口信夫

 うーむ、なるほど、と思った次第。

 他にも禁固された皇子が龍になって暴れて退治され、弔うために寺(加守廃寺)を建てた話が『薬師寺縁起』にあるそうで、そういった言い伝えにされるほど、悲劇的だったということなんでしょうね。

 『死者の書』を含め、皇子が登場する本の展示もあり、物語がより深まった気がしました。

 

當麻寺周辺

 引き続き近鉄南大阪線に乗って、「当麻寺」駅に到着。

 霊宝殿の展示期間中、9月3日を含め何度か行ったので、お寺以外にもうろうろしました。

 9月3日は門前の『ふたかみ』で、にゅうめんと柿の葉寿司を頂きました。奈良っぽい😊

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 別の日にはフルーツカフェ『もんちっち3』でパンケーキ。一皿でこんなに色んな果物を食べましたー。

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 それから、駅からお寺に向かう道すがら、つい気になる碑。

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 「当麻蹶速」って、折口先生の本でちょいちょい見かけますね。

 野見宿禰と相撲を取って負けてしまい、土地の精霊とまれびとの引き合いに出されたり、腰折田の由来になったりしている…。

 奥の相撲会館には土俵があって、お子さんが楽しそうに遊んでました。色んな力士の資料、色紙や化粧まわしなどが展示されていました。

 

 

映画『死者の書法話

 『死者の書』の映画を観るのは、今回が2度目。1度目は2022年に平城京跡で行われた上映会で、その時にも貫主の松村實昭さんからお話を伺いました。


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 中之坊の建物に入るのは初めてで、ひょっとして折口先生もここを歩いたのかな?と思いつつ、黒く光る板張りの床やら柱やらを進み、広間に到着。

 

 まず貫主の松村さんと司会の岡下さんのお話からだったのですが、貫主さんは「この小説を読んだ方、意味わかりました?」というざっくばらんな雰囲気。

 

 折口先生と當麻寺は、先生が中学時代に落第し、勉強のために寺に篭って以来の縁で、その後も何度も訪れ、S25年には柳田國男岡野弘彦さんと共にやってきています。

 

 また映画を製作した川本喜八郎さんは「『死者の書』は人形でしか表現できない」とおっしゃったほどで、丁寧で、こだわりを持って作られたエピソードを伺いました。

・1秒間に24コマ使っている

・1コマ1万円のスポンサーを募った

・郎女の人形のモデルは広隆寺弥勒菩薩

・処刑や山のシーンはイメージを重視して作った

(本来、高貴な人の処刑には血を流す刃物は使用しないが、シーンとして刀で斬ることにした)

 川本さんの仕事ぶりが伝わって来ました。

 

 ちなみに、郎女が写経する称讃浄土経には「なもあみだほとけ」は出てこないそうです。さすがプロの視点。

 

 ところで、當麻寺曼荼羅は綴れ織りなのに、どうして作中で郎女は絵を描くのか?(言われるまで気付かなかったけど、確かに…🤔)

 実は曼荼羅が綴れ織りだと判明したのはS19年頃で、『死者の書』が執筆されたS10年代半ばまでは絵とされていたそうです。

 

 最後に、僧伽梨(袈裟)を間近で見せていただいたのですが、今まで何気なく見ていたものの、実際には小さな布を縫い合わせて作られていたものだと知りまして、郎女の描写と一致しました。

裁ちきつた布を綴り合せて縫ひ初めると、二日もたゝぬ間に、大きな一面の綴りの上帛(ハタ)が出来あがつた。

――『死者の書折口信夫

 

 中将姫・『死者の書』に纏わる幅広い話題からお坊さんだからこそのお話まで、楽しく拝聴しました。

 

映画『死者の書

 川本さんというと、人形が演じる『三国志』を見ていたのですが、この『死者の書』は人形をコマ撮りしたアニメーション。

 人形たちが生きる世界で『死者の書』が繰り広げられる、不思議な感覚です。

 また、映画と小説を読みながら頭で想像していた「こう、こう」の声が違ったり、「あっし、あっし」はまさにこれだ!と思ったり、郎女の水中のシーンはこういうことかと納得したり、文字が音声と映像になるのは新鮮。

 小説のわかりにくい部分を捕捉しながら、脚本も考え込まれており、声優陣も非常に豪華です。

 美しくて不思議で、とても良い作品です😊

 

當麻寺霊宝殿

 上映の後は、庭に面した格天井の広間(S25年に先生と岡野さんが使った大広間?)で称讃浄土経の写経に挑みました。中将姫の文字を下書きに、15に区切ったうちの1枚を行ったのですが、手こずりまして、中庭を慌てて見ながら、霊宝殿へ。

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 この池の更にずっと先、庭の端に霊宝殿があり、折口先生ゆかりの品が展示されていました。

 

・映画『死者の書』で使われた南大門と中門のセット…映画では本当の門のように見えましたが、高さ40cmぐらいで、こんなに小っちゃかったの?とびっくり。

・『死者の書』添え文…発行の時に本に添えて送られてきたもののようです。(今回のチラシに写真が掲載されています)

ひさかたの あまふたかみに 二上のかげともにおいををり

しみさく あしびの にほえるこを

あはれそのにほへる をとめ

藤原のよこはき をとめ

釋迢空

・山越しの阿弥陀像(室町時代)

・短冊(短歌)の掛軸

・散らし書き(短歌)の掛軸…庭の碑の元になったもののようでした。


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・散らし書き(短歌)の掛軸

死者の書(S23年 角川書店)

死者の書(S18年 青磁社)

折口信夫から松村(実照)方丈への手紙…S19年11月御母堂のお悔やみの手紙のようです。

柳田國男からの絵葉書(宛名見えず)…冒頭の「過日は」しか読めませんでした。敗北。

 などなど…。

 

 こんなに間近で先生の筆跡が見られるとは…すごいなぁすごいなぁ、しっかし読めない…と思っているうちにタイムアップ。

 

 當麻寺はやはり折口先生もプライベートなお付き合いと言うことで、他にはないものがある気がします。

 保管してていただいて、拝見させてもらえて本当にありがたい😊写経の続きもあるので、また伺いたいと思います。